アスリート諸君

アスリート諸君!№8 号外NSCAジャパン最優先指導者賞/パーソナルトレーナーオブザイヤー 泉 建史氏(日本代表トレーナー)

毎号「健康知っ得情報」を監修してくださっている泉 建史さんが、国際団体NSCAジャパン主催S&Cカンファレンス中にNSCAジャパンアワード授賞式にて日本の『最優秀指導者賞』(パーソナルトレーナー・オブ・ザ・イヤー)に選ばれました。東大阪に拠点をおきながら、東京や海外に行き、日本オリンピック委員会強化スタッフでナショナルチーム、プロスポーツのフィジカル指導と構築、トレーナーの指導者育成、運動普及活動など多様に活動されている泉さん。今回の受賞のことから普段のお仕事や今後の活動についてもお話をお伺いしました。

―NSCAジャパンとは?
特定非営利活動法人NSCAジャパンは、米国コロラド州に本部を持つNSCA(National Strength and Conditioning Association)の日本支部です。運動におけるトレーニングとコンディショニングの研究に裏付けられた知識を通じて、一般の人々に対する健康の維持・増進からアスリートに対する傷害予防とパフォーマンスの向上などに貢献するために活動する世界的権威のある組織です。NSCAのガイドライン(アメリカスポーツ医学会や国際機関の定めたガイドラインも含む)に従って、トレーニングプログラムの構築をします。
NSCAには、NASA(アメリカ航空宇宙局)にて宇宙空間のレジスタンスエクササイズの研究チームにもいたトラビス理事長をはじめ、長年メジャーリーグやオリンピックナショナルチーム、トレーニング構築など運動・スポーツ・健康分野で活躍した多くの方々がいます。日本ではオリンピック関係者、プロ野球、Jリーグ含めてフィットネス分野、教育分野をはじめ多くの方々が取得しています。

―今回はそんな世界規模の組織の中での日本の最優秀指導者賞を受賞されました。
ありがたいことにたくさんの指導者がいる中で受賞させていただきました。20年以上トレーニングプログラムの構築やナショナルチームやプロスポーツ競技、トレーナー教育と地域の健康事業などいろんな分野に関わったことによる受賞と受け止めています。ですがこの受賞は私だけで受領したものではなく、研鑽をいただいたNSCAの皆様と所属である健康事業、ナショナルチーム、プロスポーツ機関のメンバーと受け取ったものだと思っています。

―今している活動を教えてください。
主にフィジカルトレーナー/フィジカルコーチと呼ばれ、日本代表選手のフィジカル(身体的)な面を指導し国際舞台にむけてプランニングします。日本オリンピック委員会強化スタッフ/医科学スタッフとしてナショナルチームのフィジカル強化にあたり、プロスポーツの機関でも選手育成にも関わっています。
東大阪市では健康開発を務めながら、東大阪市健康事業にも携わり、スポーツ選手だけでなく、健康、体力作りを目的とした一般の人など多岐にわたり活動しています。国際資格の組織委員としてトレーナー教育のため特別講師をしたり、健康トレーニングの行政事業で登壇したりもしています。

―フィジカルトレーナー/フィジカルコーチとは具体的にどのようなことをするのですか?
スポーツ選手の場合には、個々の力や出場する競技の特性を理解してその競技に特化した戦略を立て指導したりします。プログラムには科学的な文献を用いて分析をしたことを取り込みます。例えばジャンプトレーニングにおいてはジャンプの仕方はもちろん、怪我をしないための1日に行っても良い制限回数まで決めます。時期によって他国に遠征をふくめて実際のトレーニング環境を見に行ったり育成方法を情報交換しに行ったりすることもあり、また科学者、戦略担当、映像担当、ケアリカバリーのアスレティックトレーナー、ドーピング担当、テクニカルコーチと相談してトレーニング構築をしたりもします。
フィットネスのトレーナーとしては健康・体力作りや機能改善を目的とした方たちに、日常に必要な筋肉についてアドバイスをしたり、様々な目的に応じたエクササイズ指導を行います。

―今後目指すところを教えてください。
最優秀指導者賞をいただいた身なので、いろんな指導者のお手本になるように自分の言葉に責任を持ちながら熱を持って伝えていこうと思っています。
それから、自分が形にした仕事は未来に繋げたいです。自分の中だけで完了してしまうのではなく、次の指導者や世代に残せるように繋ぐ、そんな責任があると感じています。
選手に対してもサポートをするだけでなく、一緒に戦っているという気持ちを持ち続けます。選手も成長するように自分も成長したい。自分たちが学ぶことや新しいことに取り組むことをやめてしまうということは、指導する権利を失うに等しいと思っています。
運動だけでなく健康事業に関しても、もっと健康への取り組みを東大阪のみなさんにはたらきかけたいです。先日も健康増進事業として簡単なエクササイズなどをご紹介する講義を総合市立体育館で開き、多くの市民の方々に参加していただきました。ただ指導したその日だけ運動をするのではなく、どうすればずっと続けられて本当に健康になってもらえるかなどを考えています。
またオリンピックについても、世界一のメダルを取るためには、その分世界一の取り組みをしないと不可能だと思っています。そのためにもトレーナー・コーチなどのスタッフが一丸となって世界一の取り組みをすることが重要と考えています。

―昔から何かスポーツをされていたのですか?
陸上競技(中距離)をしていました。そこでスポーツの素晴らしさとトレーニングの仕方の工夫など、運動に対してとても興味を持ちました。17歳のときにはもう運動に関わる仕事をしようと思い、それからは運動の勉強ばかりをしていました(笑)
社会にでてからもアメリカスポーツ医学会運動生理学者やNSCAの国際資格を取得してワークショップに参加できたり関わる機会をいただいたりし、多くの大切なことを教えてくれる日本や世界の第一線の方々や今の世代の皆様方に出会えたりと、勉強をする機会に恵まれていたことは幸運でした。

―考えが行き詰まったときなどはどう過ごしますか?
本を読んだり、映画をみたり、スケッチブックに書き溜めたものを見返したりします。また司馬遼太郎記念館が好きで、考え事をするときによく行ききます。展示物を眺めていると、それらを作ったり関わったりした方たちからエネルギーをもらえる気がするんです。
東大阪は何かを創り出す、エネルギーのある街ですよね。そんな大好きな街に、自分も何かできることを還元したいと思っています。

―フィジカルトレーナーをする上でのやりがいは何ですか?
関わる方の身体や心が変わるなどのステップアップに繋がることに携われたと感じたときです。
また、ひとりの選手へのひとつの戦略を実行するにしても、たくさんの方の意見を聞いたり確認をとったりします。そうしていろんなヒアリングをしながら、みんなでチームになって一緒に考え取り組むこともやりがいです。
日頃からは常にスケッチブックを持ち歩き、思いついた絵やイメージをすぐ書きこめるようにしています。今やそのストックもかなりの数があります(笑)それらの書き込みを材料にして、選手の特徴や競技をふまえてプログラムを作り込んでいきます。元々何かを作るのが好きなこともあり、ひとつのものを形作ったという達成感を得ることもモチベーションに繋がります。

―では大変なことや苦労は?
大変なことは…うーん、何でしょう…。苦労はした方がいいと思っているので、それをあまり辛いとは思っていません。周りにも「大変だね」と言われることはありますが、大変でなければいけないと思っています。ただ周りの深い理解がなければ今の自分はいません。共に歩む大切な方々がいたからこそ、乗り越えたことも多いかと思います。

―トレーナーを目指している人に向けてメッセージをお願いします。
これはトレーナーを目指している人に限らないですが、自分のやりたいことは言葉にして、思ったことは行動すべきと思います。それが必ず報われるわけではありませんが、行動しなければ何も始まりません。
それから自分ひとりだけで解決しようとするのではなく、多くの人と協力することを大切にしてほしいです。いろんな方の力を借りて、物事の本来の良さが引き出されることもあります。その分、自分も他の人を助けられるようにすることも大切です。
私自身、「未来は今」という言葉を口癖にしています。今の自分は過去の自分の成果、つまり今の自分の成果が未来に出る。今は未来にあります。前に向かって進むなら、今を精一杯行動するべきです。…とメッセージと言いながら、自分にも言い聞かせているかもしれません(笑)

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取材を終えて
質問に対して言葉をひとつひとつ選びながら丁寧にお話してくださった泉さん。相手に向き合うその真摯さが、今回の受賞に繋がったのだと感じます。普段は謙虚で物腰の低い方ですが、心の底の燃え滾った情熱が垣間見えた取材でした。

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